誤差の足し算の考え方
設計には誤差が付きまとうので、いつか誤差に向き合わなければならない
ということで誤差の足し算に統計を導入したやつまとめていきます。
誤差というのは安全率の親戚のようで親戚でない曖昧でフワフワした存在であり、どう扱うかが設計者のセンスな気がします。
とくに小さな会社とかでは口伝だとか経験で覚えろとかそういうことが多い気がします。
他意はないですけど。
ですがそんな誤差も当然ながらきちんとした管理方法も確立されていますのでそれをまとめておこうという方針です。
とりあえず大きめな安全率をとっておこうとか、公差をとりあえず細かくしておこうという逃げはなるべく廃しておきたいですよね。高くなるし。
まず寸法誤差の足し算は大別して2種類あります
- 積み上げ法(WC法、ワーストケース法 など)
仕上がり寸法が公差の中で基準寸法から最も離れた値になることを想定。
組み合わせ寸法は仕上がり寸法の和(=積み上げ)を取り、
最小値と最大値の2通りの離散値のみを考える。
少数生産品にこちらを適用。 - 二条平均法(二乗和平方根法、統計計算法 など)
仕上がり寸法が正規分布に従うことを想定。
組み合わせ寸法は分散*1の和の平方根(=二乗平均)を取り、
幅を持った連続値として表現される。
大量生産品にこちらを適用。
(個数が多いほど正規分布の傾向が強くなるため。)
小ロット試作品を作ることを例に考えると、切削やらレーザー加工やらで作る小点数のプレートの穴間寸法の誤差は積み上げ法で考えて、ネジやスペーサなんかの市販品の寸法は二条平均法で考えてしまうとよいかと思います。
で、この2種類を分けて使う理由としては「過剰な安全率を見込みたくない」に尽きると思います。
あくまで感覚的な理由ですが、たとえば丸棒を削ってφ10±0.1に仕上ようとしたとき、φ9.9~φ10.1になる確立が一様なのって違和感がありませんか?
加えて、「最悪のケースを見据えて最大値(or最小値)ばかりが仕上がった場合の部品の組み合わせを考えるべきた」という考え方と、
「いやいや最大値ばかりが揃う場合なんて0.1%くらいの確立だろうからそこまで考えなくてもよいだろう」という考え方が出てきます。
そういった考えたちに折り合いをつけるために統計的な考えを導入して、論理的に解決します。
まず、一般的に、公差を定めた寸法に対する仕上がり寸法は正規分布*2に従うとされています。
したがって、公差の数だけ対応する標準偏差*3が存在します。
先ほどから出ている正規分布とは下図のような特性を持っています。
(標準偏差σ=10[mm]、分散Var=100、平均μ=100[mm])
大雑把に読み取れることとして次のことがあります。
- 仕上がり寸法が70~130[mm]となる確立を足し合わせたものがおおよそ100%となる
- 仕上がり寸法が平均値100[mm]になる確立が一番高く、逆に平均値から外れるほどに出現確立が低くなる
雑なグラフでおおよその特性を示しましたが、きちんと詰めていきます。
正規分布は性質として「標準偏差をσとしたとき、99.7%が±3σの中に収まる」というものがあります。これを寸法ばらつきに当てはめます。
つまり、平均値μ=100[mm]=寸法値、標準偏差σ=10[mm]=片側寸法許容差としたとき、(≒100±10[mm]としたとき)70~130[mm]に収まる確立が99.7%ということになります。
これが俗に言う6シグマ*4というやつです。
またこの際に「Cp:工程能力指数」という文字を新たに挿入します。これは理想の分布から現実の寸法に落とし込むための変数となります。
上の寸法許容差をUTL、下の寸法許容差をLTLとしたとき、Cpは
UTL - LTL はズバリ公差域ですので、『公差域 = 6σ*Cp』ということになります。
Cp=1.0のとき、公差域 = 6σ (±3σ)となり、70~130[mm]に収まる確立が99.7%
Cp=1/3のとき、公差域 = 2σ (±σ)となり、70~130[mm]に収まる確立が68%
となります。
この理想と現実の紐付けでうれしい点は、アナログ的な幅を持った連続値でありながら仕上がり寸法、ひいては組み合わせ寸法も公差値で表現できる点です。寸法と公差値を使って足し算ができるのです。
注意すべきは単純に公差値(≒標準偏差値)の足し算ではなく二乗(≒分散)の和の平方根という点です。
具体的に見てみましょう。
上図でμ1=μ2=μ3=10[mm]、T1=T2=T3=0.10[mm]の場合を考えて見ます。
WC法で考えたときμ=μ1+μ2+μ3=30[mm]、T=T1+T2+T3=0.30となるので、
最大値30.30[mm]、最小値29.70[mm]となります。
二条平均法で考えたとき、μ=μ1+μ2+μ3=30[mm]、T=√(T1^2+T2^2+T3^2)=0.17(Cp=1.0ならば99.7%の確立でこれを満たす)となるので、
最大値30.17[mm]、最小値29.83[mm]となります。
公差域の変化としては0.6:0.34なのでほぼ半分といってよいでしょう。
で、この先ほどから出ている工程能力指数Cpとはなんぞやという話なのですが、端的に言うと加工屋さんがどの程度寸法通りに作ってくれるかの度合いです。
「100±0.15で仕上てほしい」という普通公差精級のものに対してCp=1.0とCp=0.33の場合どうなるのか比較してみましょう。
Cp=1.0だと99.7%が±0.15に収まります。
Cp=0.33だと99.7%が±0.45に収まるということになります。中級の±0.3よりも荒いですね。±0.15に収まる確立は70.4%です。
「公差域から外れた商品は検品で弾かれるので納入されない」と考えても、Cpが低いとその公差域ぎりぎりの商品が届けられる確率は上がるということですね。
このCpという値をどのように扱うのかは難しいのですが、次のような考え方があります。*5
Cp=1.0を基準に考えて、高い加工屋さんに頼む場合とか高い部品を買う場合には大きい数字を見積もる、
安い加工屋さんに頼む場合とか安い部品を買う場合には低い数字を見積もればよいでしょう。