ネジのJIS保証値から考えるタップ側の諸々

JIS B 1057非鉄製ネジの機械的性質の中の「5-2ナットの機械的性質」で雄ネジの引張強度を使うとの記載があります。
鉄製ネジであればJISの付属書の中でナット側の強度区分があるのでそちらの値を見てもいいかもしれませんが
それは幾らか安全率をかけた後の数字でしょうし計算で扱うにはちょっと嫌です。
呼びの数値(≒綺麗な整数)にするために比率がちぐはぐな値を足し合わせた数値で計算したくないということです。
加えて今回はアルミにタップを切ったときについてを主に考えたいのでこちらで進めていきます。

 

雄ネジの引張強度を使うということの根拠としては次のような感じと思います。
雄ネジと雌ネジが締結された状態で軸方向の引張荷重があるとき、
雄ネジのほうが接触面積が狭い(∵雌ネジの内径が雄ネジの谷の径よりも大きい)ので応力が高くなる雄ネジのほうが先に破断します。
つまり同素材同士の締結であれば、雄ネジ側で保証されている値を守っていれば雌ネジの破断はないといえます。
という理論から、ナットを使用しないよう直接タップ加工を施すような部品の強度については
安全率をいくらか付加した値として雄ネジ側の強度を扱えるだろうということです。

雌ネジについても雄ネジの強度を適用しようということで、一つ前の記事で言及したA6061とA6063、A2017とA2024の置換はできるのか検討して見ます。
まずA6061はJISに雄ネジ強度が保証されている方です。
丸棒と板材が流通していますが、安価で加工しやすい角棒を使いたい場面というのはあります。
厚めの板材の削り出しが嫌な場面はあります。
荒くても直角の出ている角棒を使いたい場面はあります。
なのでどうしてもA6063が使いたいわけなのですが、強度についてはA6061よりも弱いらしいです。詳しく見ていきましょう。

種類 / 引張強度 / 耐力
A6061 / 310 / 275
A6063 / 240 / 215

ネジは、軸方向強度は耐力x0.88(~0.94)、せん断強度は引張強度x0.6で考えればよいと前回記事で結論付けました。
ここでありがたいのは単純な比例の関係になっていることです。
要するに、A6063はA6061に比べて、軸方向強度は77%(←240/310)、せん断方向強度は78%(←215/275)にまで弱くなっているということです。
引張強度と耐力のそれぞれの比を導出しさえすればよいわけですね。
弱いほうにあわせてA6063はA6061の77%の強度として考えて進めてけば問題なく置換できるでしょう。
注意するのは、この値はJIS保証値ではなく勝手に考えて導出した値であって、安全率を加えてはいるものの信頼度は低い数字ということです。

同じくA2017とA2024、ジュラルミンと超ジュラルミンの間にも流通材形状の問題があります。
どちらも丸棒は出回っていますが、板材はA2017が流通量が多く、また安価のように見えます。
たとえば、ネットで商品代も公開されている某店舗で確認したところ
A2024 3mm×200mm×300mm \3,810
A2017 3mm×200mm×300mm \2,100
という価格差でした。生産量とか在庫数とか諸々の要素が加わり単純な比較に意味は無いのですが、2倍近く価格差がありますね。
加えて加工する際にも材料が違うことで加工費の差が生じるかもしれませんが見積もりなど取ったことも無いので分からないです。
繰り返しになりますけどもA2024がJISに雄ネジ強度が規定されている側で、A2017が強度が低いほうです。

種類 / 引張強度 / 耐力
A2024 / 420 / 290(ネジ呼径がM1.6~M10のとき)
A2017 / 375 / 215 

つまり、A2017はA2024に比べて軸方向強度は89%(←375/420)、せん断方向強度は74%(←215/290)にまで弱くなっているということです。
軸方向強度はあまり差が無いのに対しせん断方向強度は差が大きい点が特徴的です。
弱いほうにあわせて74%の強度として考えて進めてけば問題なく置換できるでしょう。


タップ深さ(≒全貫通のときは板厚)に関してはナット厚みを参考にします。
JISで規定されているナットは3種あり、厚みは内2種(JIS1種、JIS2種)は呼径*0.8で、内1種(JIS3種)は呼径*0.6です。
他にも3ピッチ分だけあれば十分という話を聞いたこともありますが、大体JIS3種の値よりも少し低い値をとります。
(例:呼び径,ピッチ/JIS1,2種/3種/3ピッチ分
M3,P0.5…2.4/1.8/1.5
M6,P1.0…5.0/3.6/3.0)
どちらにせよ、安全方向に余裕取るため基本的に呼径*0.8は板厚を確保しようと考えます。

で、ここで注目するのは板厚とネジ呼び径の間に拘束関係が生まれている点です。
どちらかが決まればおおよそどちらかも決まるのでどんどん計算が進んでいく感覚がありますね。

で、今まで静的荷重のみを見てきたのですが動的荷重も見るには質量や時間・速度の概念の導入が必要です。
静的荷重だけ見て後からアンウィンの安全率で見てしまう魂胆です。

厳密に検討するなら最高速度から停止する瞬間の衝撃で最も大きな力が加わるはずですのでネジの衝撃強さ(J)など見ていく必要があります。

このせっかく計算してきても最後の安全率で丸めて考えてしまうところがモヤっとするポイントでしょう。
ならいっそ最初からCAEでやってしまってもいいかもしれませんね。
CAE使うにしても、傾向を見ながらおおよその当たりを付ける為にこの計算値は有用と思います。

あるいは、衝撃強さの値があらかじめ用意してある鋼製ネジの表記方に合わせてしまう手段もあるかと思います。
と思ってJIS B 1051みたらどの強度区分でも(記載無しの区分があるものの)一律で27[J]としている…なんで…

記載のある中でも一番弱い例を見ていきます。
強度区分5.6で27「J]のとき、引張強度500[N/mm2]耐力300[N/mm2]なので、
ここに近い値を持っている材質なら27[J]も耐えられるだろうという雑な仮説です。
AL5のA7075なら510と440なので上回っていますし27[J]耐えられると仮定してもいいかもしれません。
AL1のA5052で呼び径M1.6~M10ならば270と230になり下回ってしまい、この仮説では何J程度耐えられるのか分かりません。

またこの27[J]という値がどの程度なのかを考えるには時間と速度のほかに質量の概念も持ち込まないといけないので手間ですね!
仮に0.1[kg]のものが0.08[m/s](←アーム長0.01[m](10[mm])で0.13[s/60deg]の速度で回転しているときの接線方向速度)
で動いているときのエネルギーは0.0032[J]です。逆に27[J]となるにはアーム長が2.88[m]必要となります。
エネルギーは1/2*mv^2なので質量に比例しますし2倍の重さになるなら当然エネルギーも2倍となることでしょう。

次は実際にサーボモータを使っていくときにどんな数字になるのか見ていきたいと思います。